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東京高等裁判所 昭和43年(く)115号 決定

主文

本件抗告を棄却する。

理由

〈前略〉

右被告人に対する公職選挙法違反被告事件記録(長野地方裁判所伊那支部昭和四二年(わ)第三号)によれば、当該事件は昭和四二年二月六日長野地方裁判所伊那支部に起訴され、同年三月四日第一回、同年六月一〇日第二回、同年一一月二九日第三回、同四三年一月二六日第四回、同年三月四日第五回、同年六月一四日第六回の各公判が開廷され、その間起訴状の朗読、これに対する釈明、検察官、弁護人の各冒頭陳述、検察官の証拠調請求がなされた後同年八月一二日同支部は、長野地方裁判所飯田支部へ回付する旨の決定をなし、同月二〇日右飯田支部において合議体で審判する旨の決定がなされたことが認められるので、伊那支部においては、訴訟の経過に鑑み合議体で審判すべきものとの見解の下に甲号支部である飯田支部に回付したものと解せられるのである。

所論は本件は合議体で審判することを必要とする事由がないのに、伊那支部はこれを合議体で審判すべきものとして飯田支部に回付したのであつて、不当であるというので按ずるに、裁判所法第二六条によれば法定合議事件以外のものは、合議体がその合議体で審判する旨の決定をなして初めて所謂裁定合議事件となるのであるから、単独体が、合議体で審判することを相当と思料して事件を合議体に回付することは、その旨の単独体の意見であるに止まるのであつて、この意見は合議体をき束するものではなく、合議体は自由なる判断で合議体で審判するかどうかを決すべきものであり、又合議体が当該合議体で審判する旨の決定をなすには何等の制約はなく、当該合議体の自由裁量によるものである。それ故右単独体の意見若くは合議体の決定については、当事者は利害関係あるの故をもつて不服を甲立てることは許さるべきではない。又所論は本件回付により地域的関係で被告人らは訴訟遂行上不利益を蒙るから不当であると主張する。よつて按ずるに、地方裁判所の支部は裁判所法第三一条並びに地方裁判所及び家庭裁判所支部設置規則により設置されて、地方裁判所の事務の一部を取り扱うものであるから、訴訟法上は本庁と支部とは一体をなして一個の管轄単位となり、同規則の定めは地方裁判所の内部的な事務分配に関する基準と解すべく、下級裁判所事務処理規則第六条によれば、地方裁判所における事務分配はその裁判官会議が予め定め当該司法年度中は原則としてこれを変更しないとあるから、先づ右支部設置規則により甲号支部と乙号支部の取扱う事務の範囲が定められ、更に裁判官会議によつてその基準の下での細目的な事務分配が定められ、個々の事件はこれに従つて所定の裁判所が審判することとなるのである。而して或支部に繋属した事件を本庁又は他の支部に繋属せしめることは地方裁判所内部の事務分配に関することであるから、前記支部設置規則並びに裁判官会議の定めるところに従つてなすべきものであり、本件回付は右繋属の移転であるから司法行政上のことであつて、訴訟法上の管轄に関するものではなく又これに準じて処理すべきものでもないから、右回付が前記支部設置規則並びに裁判官会議の定めに従つている場合は勿論、仮にこれに違背している場合においても当事者はこれが是正を求めて不服申立をなすことは許されず、その回付が決定としてなされていても抗告の対象とはなし得ないのである。

以上説示のとおりであつて、本件抗告はいづれの点よりするも不適法であるから、刑事訴訟法第四二六条第一項に則りこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。(津田正良 酒井雄介 四ツ谷巌)

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